活版印刷
大学時代、図書館司書の資格を取るための
単位取得に勤しんでいた中で
印刷の歴史についての講義を受けていました。
ある日、その課題のために
東京都文京区にある「印刷博物館」まで出掛けることになりました。
普段ほとんどなじみのない町で
無機質なオフィスビルと人の気配がほとんどなかったのが
ぼんやりとした記憶で、後はあまり印象に残っていません。
もう8年以上は前のことですからね。
最初は「課題のためだからしょうがない」と
受動的な気持ちしかなく、とぼとぼと館内に入っていったのだけれど
実際の展示はとても興味深いものでした。
展覧会タイトルは「ヴァチカン教皇庁図書館展」。
福音書の写本に描かれた装飾文字の美しさや
グーテンベルクが発明した活版印刷の歴史について紹介するものでした。
その展示を見て、身を持って感じたのは
「なるほど本というのは、印刷技術に支えられているんだ」ということ。
手書きで綴ることしかできなかった福音書も
活版印刷の発明によって大量印刷が可能になったのです。
何万冊と本が売れる時代は、この発明がなければありえませんでした。
周知の事実かもしれませんが、私にはとてもありがたく思えて、
猛烈にこの気持ちを誰かに伝えたくなったのを覚えています。
隣で見ていた女性に「スゴイですね、うふふ」と最大限の怪しさで
話しかけてしまうところでした。
ところが活版印刷も、後に普及する写真写植やDTPに取って代わりました。
今では、自宅のプリンターでもスイスイと印刷できるし
雑誌や書籍でもデータ入稿でオフセット印刷が主流になっています。
***
さて、ある日、出版社での打合せのために自転車を走らせていると
古い印刷所が目に入りました。活版印刷らしい金属の文字が並んでいます。
外から見るとちょっと暗いし、もう店をたたんでいるのかもしれない。
通るたびに気になるのだけれど、静まりかえっていて
店の入口を開ける勇気はなかなかありませんでした。
ところが東京旅行で、センスのよい活版印刷のカードを買ったことから
名古屋でも活版印刷をしている所を探したくなって
電話帳で印刷所を調べてみたのです。見つかりました。
でも、今も営なんでいらっしゃるのか分かりません。
ちょっとビクビクしながらも、電話をしてみました。
「活版印刷、そちらでしていらっしゃいますか」
「ええ、やっていますよ」
私の祖母と同じぐらいの年齢らしき声で返ってきました。
話を聞いてみると、名刺の印刷をしてもらえるらしいのです。
さっそく下書きの原稿を作って、名刺の印刷をお願いしに行きました。
ずっと名刺を新しくしたいと思っていたのが、ようやく叶いました。
知り合いのデザイナーさんにもお願いしていたのだけれど
余裕のある時で構いませんよ、のんびり待っていますから
と言ってしまっていたのです。もちろん完成はいつになるか分かりません。
だからそれまでの間、初めて会う人に手渡すために名刺を新しくすることにしました。
初めての挨拶は、自分も心地よい方がいい。
紙が好きだし、印刷フェチだし、文字だけのシンプルな一枚だけど大満足。
自己満足、分かってはいるけれども、
沢山の人に受け取ってもらいたいと思っています。
9.7追記 名刺が出来上がったので写真をアップしました。
印刷所へ寄った時は、ちょうど印刷の真っ最中で
インクの匂いが漂っていました。それにしても渋くてステキな印刷所でした。
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